十文字女子学園大学スペシャルコンテンツ

佐々木則夫副学長インタビュー 夢を力に歩む

2011年のサッカー女子ワールドカップで、なでしこジャパンを初優勝に導き、現在、日本サッカー協会の女子委員長として競技力向上に力を注ぐ佐々木則夫先生。2016年から本学の副学長として学生の指導に当たる佐々木先生に、授業で大切にしていることやこれまでの生い立ち、今後の展望などについてさまざまなお話を聞きしました。

目次

第1回
サッカーのノウハウで自ら考え行動する女性を育む
第2回
山形から東京へ 伸び伸び育った子ども時代
第3回
サッカーを続けながら学生生活を謳歌
第4回
どんな場所でも「学ぶ」意識を大切に!
第1回

サッカーのノウハウで自ら考え行動する女性を育む

サッカー場の誕生がきっかけ

――佐々木先生といえば、サッカーの監督というイメージが強いのですが、なぜサッカーから教育の現場へ?

8年ほど前、十文字学園が主催する特別講演会で登壇する機会がありました。大学のグラウンドを見せていただいたときに、大学の関係者から「ここにサッカー場をつくろうか迷っています」というお話を聞きました。緑があふれる、森のような素敵なところだったので、「ぜひつくってください」とお伝えしたところ、「もしサッカー場が完成したら、大学でご指導いただけますか?」と言われて。私は「もちろん!」と快諾しました。そのときは、半分冗談のようなお話でしたが、その後、本当に素晴らしいサッカー場が完成して正式にオファーをいただき、私も「大学の一助になれるのであれば」とお引き受けした次第です。

――学校ではどのような授業をされているのでしょうか? サッカーの授業ですか?

サッカーを使ったコミュニケーションの授業も行いますが、本学には社会で実践的に活躍できる人を育てる学部が多いので、私も社会進出の一助になれるような授業を心がけています。例えば、学生に新聞記事を読んでもらい、どんなことを感じたかを発表したり、自分がその記事に書かれている人の立場になったときに、自分ならどう対応するかを考えてもらったりしています。自分の意見を言うトレーニングの側面に加えて、記事を読んで感じることは人それぞれなので、多様な意見があることも感じてほしいと考えています。話し合うときは、他の人の発言に対して、自分と考えが違っても「ノー」と否定せず、「そういう考えもあるのだな」ということを感じて物事を理解し、吸収しながら、自分の考えを発表してもらっています。

サッカーの指導スタイルからヒントを得た授業

――こうした授業のアイデアは、どんなところから生まれていますか?

サッカーは、主に自分で判断してチームで協力し、物事を成し遂げることが求められる競技です。学校では、いろいろな知識やノウハウを教える「ティーチング」形式の授業が多いですが、サッカーの指導者というのはどちらかというと、「コーチング」といって、選手に考えさせて、答えに導く役割を担っています。社会に出ると、自分で感じてアクションを起こす場面が増えるため、ティーチングよりもコーチングが社会人を育てるトレーニングになると考えて、サッカーで経験してきた指導法を意識しながら授業に取り組んでいます。

――サッカーの指導スタイルが、社会人に必要な能力を育てることにつながってくるのですね。

サッカーは、監督が試合中に細かなサインを出しません。野球の場合はバントや、ヒッティング、エンドランなど、場面に応じて一つずつ指示があります。つまり、基本的に指示を受けて動くというスタイルになります。実際の社会では、いつでも指示を待っていればよいのではなく、自分で学んだことを判断して活用していくというところが重要だと思うので、私の授業はなるべく、ティーチングではなく、コーチングスタイルになるようにということを意識しています。

前向きな女性の姿勢を応援したい

――十文字学園女子大学の学生の皆さんの印象はいかがでしょう?

今日は授業で、ウオーキングサッカーというちょっとユニークなサッカーをしましたが、大勢が参加してくれて。学生の皆さんは、控え目なところもありますが、好奇心旺盛な前向きな印象がありますね。
一方で、コーチングスタイルの授業をしていると、自分の意見がみんなと違ったら、批判的に見られるのではという心配をしてしまい、最初は意見が言えない学生が多くてもどかしさがありました。でも、社会に出て「どう思う?」と聞かれたら、まず、自分の意見が言えないといけません。「こんなことを言ったら批判されるのでは?」ということを考えてしまうと、発言しづらいという人もいると思いますが、これからは、知識を活用して物事を伝えることが重要です。まずは、それが大切だということを感じてもらえたらうれしいです。
そして今の女性は本当に優秀です。逆に、それを生かし切れていないのが社会です。私たちのような指導に当たる人間が、皆さんがすごいということを知らせたり、勇気を持ってもらう手助けをしたりすることで、どんどん女性に活躍していってほしい。私は、今の日本を変えるのは、女性しかいないと思っていますから。

――これから社会へ羽ばたく学生の皆さんには、どのような言葉を掛けたいですか?

社会に出たら、パワーアップできるチャンスが待っています。それを実現するためには、きちんとした意識を持つことが大事だと伝えたいですね。過去を振り返って、私にはできないと躊躇するのではなく、一歩踏み込んで進んでいってほしいです。そうすれば必ず成長できます。そのとき、あまり焦らなくても大丈夫。初めて経験することばかりなので、大変なこともありますが、多くの人たちが経験し、乗り越えてきたことでもあります。「自分ならできる」という意識を持って、乗り越えていってほしいですね。

100年前の建学の精神に感動

――副学長に就任されて今年で6年目ですが、改めて十文字学園女子大学の教育方針についてどのようにお考えですか?

初めて学校の情報を調べたとき、創設者である十文字ことさんの建学の精神が込められた「身をきたへ 心きたへて 世の中に 立ちてかひある 人と生きなむ」という学園歌を知り、素晴らしいと感じました。私自身、女子サッカーに関わるなかで、自分なりにどんな指導が良いかなど試行錯誤をしてきましたが、100年も前 に、女性の教育についてこれほど先進的な考えを持っていた人がいたということに驚きました。ことさんが目指したことは、現代の日本社会のなかである程度実現できてはいますが、まだまだ達成できていないところがあります。ことさんが大臣だったら、今のジェンダー平等に関する議論ももっと成熟したものになっていたでしょうね。ことさんが掲げた理念に強く共感しているので、これからも微力ながら役に立てたらと考えています。

成功の反対は失敗ではなくチャレンジしないこと。ことさんが思い描いた、より一層女性が活躍できる社会を実現するためにも、学生の皆さんはいろいろなことに挑戦して自分らしく輝いていってほしいですね。

(次回へつづきます)
2022.7.1

PROFILE

佐々木則夫(ささき・のりお)氏プロフィール

1958年山形県生まれ。帝京高校、明治大学とサッカー部で活躍。大学卒業後はNTT関東(大宮アルディージャの前身)で社員として働きながらプレーし、日本リーグ2部昇格を果たす。33歳で現役引退後、大宮アルディージャの初代監督などを経て、2007年に日本女子代表の監督に就任。男女通じてアジア初のワールドカップ優勝、ロンドン五輪銀メダルなどの戦績を残した。退任後、準備室長として日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の設立に尽力するなど、女子サッカーの発展に貢献し続けている。2016年より十文字学園女子大学 特命担当副学長を務める。