基準率の無視base rate neglect
確率の話はどうも苦手
- たとえば…
- ある病気でその検査を受けると90%陽性反応が出るとして、自身の検査結果が陽性だったら、確実にその病気にかかっていると思うかもしれない。(注:集団における有病率を考慮してください)
ある街のタクシーの色は2種類で、その割合は、青が15%、緑が85%だそうです。ある晩、タクシーによるひき逃げ事件が起きました。目撃者の証言によると、ひいたのは青タクシーとのことです。
ところが、現場は暗かったこともあり、目撃者は色を間違える可能性があります。そこで、この目撃者の証言がどれぐらい正確かを同様の状況下でテストしたところ、正しく色を判別できるのは80%、20%は逆の色を答えることが分かりました。
さて、目撃者の証言通り、青タクシーが犯人である確率はどれぐらいだと思いますか。
( ) %
Tversky & Kahneman (1980)より
何%と答えましたか。
実は、この実験では多くの人が80%、もしくは、それに近い確率を答えることがわかっています。一見、何の問題もないように見えるかもしれませんが、はたしてどうでしょうか。
例題では、4種類の確率を検討する必要があります。
まず、目撃証言がないとしたら、
- 青タクシーが犯人である確率:15%
- 緑タクシーが犯人である確率:85%
と考えるしかないでしょう。
次に、目撃証言が得られたので、
- 青タクシー(15%)に対して正しく青(80%)と証言する確律:12%(0.15×0.8)
- 緑タクシー(85%)に対して誤って青(20%)と証言する確率:17%(0.85×0.2)
を考える必要があります。
これら4種の確率から、青タクシーが犯人である確率は、41%( 0.12 /(0.12+0.17))になります。
この値を意外に思った人もいるかもしれません。つまり、直観的なプロセスで結論を導き出すヒューリスティックが発動すると、自身が持っている概念との合致度を優先してしまい、本来基準とすべき情報(例題では、青タクシー15%と緑タクシー85%という事前確率)を無視したり軽視したりすることがあります。これは基準率の無視と呼ばれています。
関連記事:代表性ヒューリスティック 利用可能性ヒューリスティック
【参考文献】
Tversky, A., & Kahneman, D. (1980). Causal Schemas in Judgments Under Uncertainty, in Progress in Social Psychology, ed. Morris Fishbein, (Hillsdale, NJ, Erlbaum), 49-72.
市川伸一 (1997). 考えることの科学 中公新書