1985年、日本への旅行がきっかけで日本の着物と出合い、人生が転換したシーラ・クリフ先生。日本文化をさらに深く理解するため、東北地方まで1000キロもの道のりを自転車で走破。青森県や山形県を訪れ、現地で様々な伝説を聞き、美しい景色に触れた。当時、地方を訪れる外国人が少なかったため、シーラ先生自身が“観光名物”となった。日本文化をこよなく愛し、和服姿で教壇に立つ十文字学園女子大学文芸文化学科教授(専門「イギリス研究」「着物研究」)のシーラ先生に日本での生活と着物について伺った。
(取材班 栗山史帆,今井未来,村山友梨,リテイギョク)
シーラ先生自身が作った蚕
―― シーラ先生がお好きな着物の柄はありますか
シーラ先生 話、ストーリーがある着物が好きです。ちょっとみんなと違い、ユニークな着物が好きです。みんなは季節の花の着物を着るのですが、私は季節の花に何か他の柄をプラスするのが好きです。例えば、波の柄と船の帯、それを合わせると、ストーリーが作れます。これは洋服ではできないことです。この間、十文字学園女子大学で新座市民のために服装文化について講演する機会があったのですが、その前日に福島の米が東日本大震災で汚染されているという新聞記事を読みました。それで、講演会には稲と蝸牛(カタツムリ)の柄の着物を着て行きました。福島で安全な米がとれるように願っていますので、この着物を着ました、とお話しするためです。すると、みなさんから大きな拍手をいただきました。これは、着物はものを語るという一つの例です。
―― シーラ先生にとって、着物の一番の魅力は何ですか
シーラ先生 着物の魅力は深いから、簡単に説明するのは難しいですけれど、着物の生地を作り出す染色の技は素晴らしいと思います。日本には素晴らしい染色の文化が残っています。染色によって、着物の印象が全く変わってきます。染色は伝統的なものだけではなくて、ファッションでもあるのです。日本のファッションもこれからどんどん変わっていくと思います。本当に新しいファッションにも伝統を入れながら、今の若者が「かわいい!」、「好き!」と言えるようなものを作っていくと思います。日本では新しいファッションがどんどん出ているけれど、でも歴史(古い伝統)を大切にしています。それに対して、西洋のファッションは歴史を捨てたファストファションです。これらの服はどこでも買えて、どこでも作られて、浮いているファッションだと思います。
インタビューを終えて
―― シーラ先生が着物を着るわけは何でしょうか。
シーラ先生 着物は場所と人をつないでいて、全く捨てられない文化です。外国人の私が着物を着るのはおかしいかもしれませんが、でもこれは、日本人が着物を着るようにというメッセージを伝えたいからです。着物はいいものだと言うだけではなくて、自分自身で着物を着るのが大切なのだと思います。「おかしいな、外国人が着物を着て…」といわれますが、それは、多分私にしかできない仕事だと思っています。この大学ではみんなが卒業するまで、自分の専門はもちろん学んでほしいですけれど、自分の文化を着られるようにしてほしいですね。全員に着付けを習うチャンスを与えたいと思っています。日本にはファッションでもある着物があります。すごく楽しいファッションですから、日本人にはそれを愛してほしいと思いますね。そして自国の文化を大切にしてほしいです。
―― 大学でのお仕事について詳しくお聞かせください。
シーラ先生
大学では日本の布やファッション、着物の社会学について研究しています。また、着物の文様に関して、2002年のイギリスの大学での講演を皮切りに、多くの講演を行ってきました。その他、『日本のことを英語で話そう』という英語学習教材を手掛けました。これは簡単な英語で書かれ、各ページには日本の着物の柄や伝統的な小物が描かれ、日本文化が楽しめます。
学内では、「着物の美」やイギリスの生活に関する講義をしています。大学での仕事は私に刺激を与えてくれます。大学生の年齢はすごく可能性が開くときで、いろいろ自分を探してくとき。高校生はまだ子供でいろいろ管理されて選択できないじゃないですか。みんな同じ選択して、同じ勉強して同じ教科書で。でも大学に来るのはこれが勉強したいから,自分の道を選んでこれを探していきたいからと。これはすごく私にも刺激を与えるし、その手伝い、アドバイスできるのがうれしいです。
インタビューを終えて
◇シーラ先生は本当に着物を愛しているということがとても伝わってきました。もっと自国の文化を大切にしようと思いました。(栗山史帆)
◇とても親しみやすい人柄と着物への愛がある方で、日本人も知らないような日本の知識もあり感銘を受けました。(今井未来)
◇インタビュー内容を文字に起こした時、シーラ先生は本当に着物が大好きだということが伝わってきました。(村山友梨)
◇大学の先生としてではなく、同じ外国人が、日本で生活する先輩として、いろいろ役に立つ情報を教えていただきました。ありがとうございました。(リテイギョク)