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学長室から




志村 二三夫 学長からのメッセージをお届けします。

令和元年度 学位記授与式式辞に代わる贐(はなむけ)のことば

十文字学園女子大学
学長 志村 二三夫


 晴れてのご卒業・修了、真におめでとうございます。
 ご家族・保護者の皆様におかれましても、お慶びはひとしおのことと存じます。心よりお祝い申し上げますとともに、これまでの本学へのお力添え・ご協力に深く感謝いたします。

 心待ちにされた学位記授与式は式典が中止となりました。新型コロナウイルス感染対策のための苦渋の決断とはいえ、残念また申し訳ない気持ちでいっぱいです。どうかご容赦のほどお願いいたします。
 これまで学位記授与式の式典では、教職員を代表して式辞をお贈りしてきました。式典の最後は、建学の理念が凝集された学園歌「身を鍛え 心鍛えて 世の中に 立ちて甲斐ある人と生きなむ」を全員斉唱して締め括りました。今回、このような式典は中止ですが、十文字意伝子(いでんし)を繋ぎ、伝える主役となり、学園歌の精神を実践し、世の中に立ちて甲斐ある人をめざす皆さんを祝福し、期待を込めて、式辞に代わるメッセージをお贈りします。

 さて皆さんは、なぜこの世に生きているのでしょう。それは、突き詰めれば、皆さんに「生きなさい」と指示する情報を伝える遺伝子の働きによります。遺伝子は、英語ではgene(ジーン)です。
遺伝子の「遺」は、遺(のこ)すという意味、「子」は小さなものを示します。ですから、遺伝子は「生きなさい」という指示を宿し、子孫に遺し伝わる小さなもの、を意味します。
 私たちが今ここに生きているのは、私たちの祖先には、配偶者とめぐり逢い、子をつくり、残すという仕事をする前に命を失った個体は、ただの一つもないことを意味します。
 東日本大震災のような天変地異、飢えや病気、災害や事件・事故、戦争などにより、子を残さずに命を失うケースは計り知れません。

 こうした不幸が私たちの祖先には一度も起こらずに、ずーっと続いてきたのです。これは、確率的に極めて、極めて、極めてまれなことです。このような奇跡の証として、私達はこの世に生を受け、今ここにいるのです。まさに文字どおりで、有り難いことです。皆さんも私もみんなが、奇跡の人です。
 これからの人生、先が読みづらい世の中でいろいろなことがあるでしょうが、何かの折に、ご自分がまた周りの人もみんなが奇跡の人だという私の話を思い出して下さると嬉しいです。ぜひご自分を、また他の人を大切にして下さい。
 そのような奇跡の人である皆さんは、本学での学びをとおして、卒業後の社会で生き抜くための基本的な力や、専門的職業に求められる知識や技能を教わり育ち、能力を高めました。それとともに、とても大切なことですが、友達、先輩・後輩、教職員、地域の方達と出会い、人間関係を築き、人間関係力を高めてきました。この人間関係を築く中でも、いろいろと奇跡があったことと思います。そのような経験を社会に出てからも、ぜひ生かして下さい。
 そして、社会に出た後は、いずれは教わり育つ立場から、教え育てる立場がやってきます。その時には、あなたも私も奇跡の人という観点に立ち、教え育てるからさらに教え育む、というように気持ちの持ち方が変わってゆくとよいですね。

 繰り返しになりますが、皆さんが知っている遺伝子(gene)は、生物に「生きなさい」と指示する情報を、親から子、子から孫へと伝えます。恨めしき新型コロナウイルスは生物ではありませんが、遺伝子をもち、生物の生きた細胞の仕組みを乗っ取って自分の分身のウイルス粒子を増やし、人から人へと伝わり、新型肺炎という伝染病(communicable disease)を引き起こす可能性があります。このcommunicableという語はコミュニケーションと同じ語源で、伝達できる、伝えうるという意味です。換気の悪い場所等で、みんながグループになって仲良く緊密に集うmingle(ミングる)によって、新型コロナウイルスは人から人へと伝わり易くなり、ウイルスが伝染した人の集団(クラスター)がつくられるとされています。クラスターのメンバーが他所でミングると、新たなクラスターがつくられ、急激に伝染が拡大します。新型コロナウイルス対策で厄介なのは、ウイルスを持っていても、病気の症状が明瞭ではない不顕性感染の人がいることです。明らかな症状を持っている人はもちろん、症状が現れていない人であってもミングることによって、感染のクラスターづくりを進めてしまう可能性があります。他人からウイルスをもらわないこととともに、もしかして持っているかもしれないウイルスを他人に伝えないという予防意識・行動が新型コロナウイルスのリスクを収束させる上でとても重要です。どうぞよろしくお願いします。

 さて、このような遺伝子とともに、私たちは別の“いでんし”を持っています。既に示したように、意思や意欲の意、つまり心に思うこと、気持ち、考え、を一字で表す「意」、これを伝える「意伝子」です。ですから、この意伝子は、コミュニケーションをとおして脳から脳へと文化を伝える単位です。生物進化学者のリチャード・ドーキンスさんが、ジーンから類推して提唱したミームというものが日本語に意訳されたものです。実は、十文字の意伝子とは、こちらの、意を伝える小さなもののことです。意伝子ミームは、親から子、子から孫へと伝わるジーンとは異なり、時間や空間を飛び越えて、十文字こと先生の脳から私たちの脳に伝わることもできます。言語等のコミュニケーション媒体により、時間や空間を飛び越えて伝わるので、文化の進化や突然変異を引き起こすこともあります。

 この十文字の意伝子について話を進めます。
 皆さんご存知のように、記念ホールの外側、正面に向かって右手に、十文字こと先生と並んで、大元先生の像があります。
 大元先生は、みずから進んで新しい物事に取り組む、進取の精神に富む方でした。実業家として成功されたとともに、ご自分の病気の治療に役立った体操を自彊術と命名し、その普及啓発に尽くされました。十文字中学・高校では、創立以来、自彊術体操が、朝の日課となっています。
この自彊の言葉は、自彊不息(じきょうやまず、あるいはじきょうふそく)という四字熟語の形で、古代中国の本、易経に登場します。自彊とは自らをつよくすること、つまり鍛えです。不息はやめない、やまない。したがって、自彊不息は、いつも自分を鍛え続ける、という意味になります。
 十文字では、高等女学校としての創設以来、時代変化を見据えて、中学校、高等学校、短大、幼稚園、大学、そして大学院をつくり、大きく発展し進化してきました。もう間もなく、この4月からは、大学はこの先の持続可能な発展をめざし、その第一歩として、これまでの一学部から三学部へと教育体制が大変身・トランスフォームします。このような進化の流れの中で、ゆるぎなく、しっかりと守り抜いてきた伝統や文化があります。その最も大事なものが、学園歌に込められた建学の精神また「自彊不息(じきょうやまず)」の理念です。

 皆さんは、勿論、こと先生と大元先生にお会いしてはいません。けれども学園歌や自彊不息(じきょうやまず)をとおして、こと先生と大元先生の脳から皆さんの脳へと時間を超えてジャンプして、十文字文化の真髄である自ら鍛えることの大切さを伝える、意伝子ミームが伝わっていると思います。
 自ら鍛える力は、自己教育力と言い換えることもできます。自己教育力は、自分が自分を、自分で自分を教育する力です。女性活躍が求められ、情報化、国際化、価値観の多様化、少子・超高齢化などがなお一層進むこれからの社会の変化に、しっかりと対応して生き抜いていくには、自己教育力を高めなくてはなりません。しかし、自ら鍛えるといっても、自分一人で鍛えることには限りがあります。社会の一員として他者との交流、ミングるなどによる鍛えが大切です。新型コロナウイルスは、人間にとって大切なミングるを悪用して、のさばり蔓延る(はびこる)厄介物。ですから、この厄介者が降参するまで、新型コロナウイルス感染のクラスターを生み出すようなミングるは控え、お休みすることが大切です。でも、クラスターそのものは、集団や仲間のことで、本来、忌み嫌うべきものではありません。新型コロナウイルス感染が終息したら、ミングるなどを活用して、鍛えのよさに共感する仲間を増やして下さい。そうすることで、皆さんは十文字意伝子のクラスターづくりの主役となり、学園歌の精神を実践し、世の中に立ちて甲斐ある人へと近づいて下さい。

 鍛え、それは当て字にすると「喜多恵」、つまり喜びに多く恵まれる、喜びを多く恵むとなります。皆さんが、自らの鍛えをとおして、喜多恵を実現されますよう期待し、お祈りし、贐(はなむけ)のことばの結びとします。